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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)340号 判決 2000年6月13日

原告

コーネ・オイ

代表者

【A】

【B】

訴訟代理人弁護士

八掛俊彦

同弁理士

【C】

【D】

被告

特許庁長官【E】

指定代理人

【F】

【G】

【H】

【I】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成4年審判第24204号事件について平成10年6月4日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

オー・ウント・カー・オーレンシュタイン・ウント・コッペル・アクチェンゲゼルシャフトは、1985年(昭和60年)7月24日にドイツ連邦共和国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和61年7月23日、発明の名称を「エスカレータまたは動く歩道用の平行駆動装置」とする発明(以下、審決において判断の対象となっている請求項1に係る発明を「本願発明」という。)について特許出願したが、平成4年9月4日に拒絶査定を受けたので、同年12月28日、拒絶査定に対する不服の審判を請求した。特許庁は、同請求を同年審判第24204号として審理した。上記出願人は、上記審理係属中である1997年(平成9年)1月14日、特許を受ける権利を原告に譲渡し、原告は、平成9年8月26日、これに伴う特許出願人の名義変更の届出をした。特許庁は、上記審理の結果、平成10年6月4日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年7月6日、原告にその謄本を送達した。なお、出訴期間として90日が付加された。

2  本願発明の特許請求の範囲(請求項1)

「エスカレータまたは動く歩道用の駆動装置であって、この駆動装置が循環する踏段帯状体またはパレット帯状体の方向変換範囲内において、踏段帯状体またはパレット帯状体の内側に設けられ、駆動装置が歯車装置部分を有する電動機を備え、この電動機が踏段駆動軸またはパレット駆動軸に対して軸線が並行になるように設けられ、かつ他の歯車装置部分を介して踏段駆動軸またはパレット駆動軸を駆動する駆動装置において、互いに同軸の電動機と遊星歯車装置とからなる駆動ユニットが、踏段駆動軸またはパレット駆動軸と手摺駆動軸に対して軸線が平行になるように設けられていることを特徴とする駆動装置。」(別紙図面(1)参照)

3  審決の理由

審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本願発明は、実公昭42-9716号公報(以下「引用例イ」という。)に記載された発明(以下「引用発明イ」という。)に、実願昭55-73138号(実開昭57-570号公報)のマイクロフィルム(以下「引用例ロ」という。)に記載された発明(以下「引用発明ロ」という。)を適用することにより、当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法29条2項に該当し、特許を受けることができない、としたものである。

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、2頁2行~3頁18行、4頁13行~末行、5頁8行~19行は認め、その余は争う。

審決は、引用発明イの認定を誤り(取消事由1)、本願発明と引用発明イとの対比を誤り(取消事由2)、相違点についての判断を誤り(取消事由3)、本願発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由4)、その結果、本願発明は特許法29条2項に該当し特許を受けることができないとの誤った結論に至ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

1  取消事由1(引用発明イの認定の誤り)

審決は、引用発明イが、「駆動ユニットが、踏段駆動軸と手摺駆動軸に対して軸線が平行になるように設けられている」との構成を有する旨認定するが、誤っている。

引用例イの第2図(別紙図面(2)第2図参照)に記載された駆動ユニットは、エスカレ-タにおけるものではあるものの、踏段駆動軸のみに対するものであって、同図には、手摺駆動軸もその駆動手段も、さらには、それらの駆動関係についても、全く記載されておらず、また、同図を離れて同引用例の全体をみても、手摺駆動軸とその駆動手段及びそれらの駆動関係は全く記載されていないから、引用発明イのエスカレ-タにおいて、「踏段駆動軸と手摺駆動軸」が互いに平行となるとも、駆動ユニットが「手摺駆動軸に対して軸線が平行になる」とも、いうことはできない。

2  取消事由2(本願発明と引用発明イとの対比の誤り)

引用発明イは、上記のとおり、「駆動ユニットが、踏段駆動軸と手摺駆動軸に対して軸線が平行になるように設けられている」という構成を有していないから、本願発明と引用発明イとが、上記の点で一致するとした審決の認定が誤っていることは、明らかである。

また、審決は、(イ)具体的課題において、引用発明イが、「スペ-スの節約を図る」というだけのものであるにすぎないのに対して、本願発明は、「必要なスペ-スが少なく済むだけでなく、同時に電気的出力を高めることができるコンパクトなエスカレータ駆動構造体を提供する」ものである、(ロ)本願発明は、「モ-タと遊星歯車装置とから成る駆動ユニット」、「その駆動ユニットを踏段帯状体下の空間内に収納できる」との構成を有するのに対して、引用発明イには、このような構成がない、という重要な相違点を看過している。

3  取消事由3(相違点についての判断の誤り)

実願昭55-73138号(実開明57-570号公報)のマイクロフィルム(以下「引用例ロ」という。)の第6図に、引用発明イと同一の技術分野に属するものと認められるエスカレータの駆動装置において、電動機16の出力を遊星歯車装置20により減速する点が記載され、さらに、遊星歯車装置を採用すれば、比較的小型化が図れ、モータと同軸とすることができる点も開示されていることは、事実である。

しかし、引用発明イと同ロとは、具体的課題及び具体的構成が明らかに相違しているので、引用発明イ及び同ロを組み合わせる動機付けが見当たらない。また、当業者といえども、引用発明イ及び同ロから本願発明の「モ-タと遊星歯車装置とから成る駆動ユニットを踏段帯状体下の空間内に収納できる」構成及び本願発明の「踏段駆動軸と手摺駆動軸を同じモ-タで駆動する」構成を想起することはできない。

4  取消事由4(顕著な作用効果の看過)

本願発明は、遊星歯車装置の寸法、特に軸方向における寸法が非常に短いので、電動機と組み合わせた駆動ユニットの全体の寸法が小さく、そのため、踏段帯状体又はパレット帯状体の間隔が狭いにもかかわらず、踏段帯状体又はパレット帯状体の方向変換範囲内において踏段帯状体又はパレット帯状体の内側に駆動ユニットを配置することができ、したがって、エスカレータ又は動く歩道の全長を短縮することができ、さらに、遊星歯車装置によって大きな減速が得られるので、電動機の出力を高めることができ、エスカレータ又は動く歩道の電動機として実際に使用可能である、という顕著な効果を奏するものである。

第4被告の反論の要点

審決の認定判断に誤りはなく、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1(引用発明イの認定の誤り)について

引用例イにおいて、その第1図(別紙図面(2)第1図参照)の符号20で示されたものは、明らかに手摺であり、また、踏段と手摺を有するエスカレータにおいて、踏段駆動軸と手摺駆動軸の軸線を互いに平行となるようにして、踏段と手摺を、同期して同じ方向に駆動することは、例えば乙第1号証の図面(特に第1、2、4図)と発明の詳細な説明中の関係する箇所の記載、乙第2号証の図面(特に第2図)と詳細な説明中の関係する箇所の記載に示されているように、本願発明の出願前周知の技術であった。そして、引用発明イのエスカレータにおいて、踏段駆動軸と手摺駆動軸の各軸線を平行でないものとすべき特段の事情があるものとは認められないことから、引用発明イにおいても、踏段駆動軸と手摺駆動軸の各軸線は平行であることが、実質的に開示されているということができる。

2  取消事由2(本願発明と引用発明イとの対比の誤り)について

(1)  本願発明と引用発明イとが「駆動ユニットが、踏段駆動軸と手摺駆動軸に対して軸線が平行になるように設けられている」点で一致するとした審決の認定に誤りはない。

(2)  本願発明は「必要なスペースが少なく済むだけでなく、同時に電気的出力を高めることができるコンパクトなエスカレータ駆動構造体を提供する」という点については、課題又は効果についての主張にすぎず、失当である。

また、引用例イに、「表側の踏段1と帰路側の踏段1との間に生じる空間S(第4図参照)を有効に利用するエスカレータの原動機取付装置の構造にかかわるものである。」(甲第5号証の1頁左欄29行~32行、別紙図面(2)第4図参照)と明確に記載されていることからすると、駆動ユニットを踏段帯状体下の空間内に収納できる点が引用例イに記載されていないとする原告の主張は、誤りであることが明らかである。

3  取消事由3(相違点についての判断の誤り)について

本願発明と引用発明イとの課題は共通しており、構成も、駆動ユニットの歯車装置が、本願発明においては遊星歯車装置を用いているのに対し、引用発明イにおいては、ギヤードモータなどを利用した電動機付原動機10の歯車装置部分がどのような歯車装置からなるものかが不明である点以外に相違はない。そして、引用例ロの「駆動装置全体の配置は大変小さくなる」「しかも遊星歯車減速機では・・・小型に設計できる」「遊星歯車減速機そのものが小型であるため・・・エスカレータの機械室に十分収まる幅となる」(5頁2行~6頁11行)等の記載からみて、産業上の利用分野(エスカレータ)も、解決すべき課題(コンパクト化)も、引用発明イと同じものであるエスカレータにおいて、互いに同軸の電動機と遊星歯車装置を用いたものが記載されている。したがって、引用発明イの電動機付原動機10の減速装置部分に、引用発明ロの遊星歯車装置を適用することが困難とする理由はない。原告の主張は、失当である。

4  取消事由4(顕著な作用効果の看過)について

本願発明と引用発明イの課題を比較すると、必要なスペースが少なく済む点で一致することは明らかである。

また、本願発明が電気的出力を高めることができる点は、「第3図に示すように、手摺駆動軸4の傍らに、他の電動機1aと他の遊星歯車駆動装置2aとからなる他の駆動ユニットを設けると、電動機1と遊星歯車装置2とからなる駆動装置を一つだけ備えた前述の両図(1図と2図)の構造はその駆動出力を・・・飛躍的に増大することができる。その際、頂部長さを大幅に変更する必要がない。」(甲第2号証10頁11行~18行)との記載からみて、駆動ユニットを複数個設けた場合にはじめて得られるものであり、本願発明から直ちにもたらされるものではない。

さらに、原告が主張する遊星歯車装置を適用した場合の効果は、遊星歯車装置が本来持っている効果である。

小型である点、モータと同軸にできる点、ウオームギアなどに較べ伝達効率が良い点等は、当業者において自明であり、引用例ロにも記載されている効果にすぎない。

第5当裁判所の判断

1  本願発明の概要

甲第2号証及び甲第4号証によれば、本願明細書には次の記載があることが認められる。

(1)  産業上の利用分野

「本発明は、方向変換範囲内および回転する踏段帯状体またはパレット帯状体の中に設けられ、電動機、歯車装置、踏段駆動手段またはパレット駆動手段、および手摺駆動手段を備えた、エスカレータまたは動く歩道のための平行駆動装置に関する。」(甲第2号証4頁11行~16行)

(2)  発明の課題

「本発明の課題は、エスカレータまたは動く歩道のための一層コンパクトな駆動装置を提供することである。この駆動装置は更に、公知のすべての実施形と比べてエスカレータまたは動く歩道の必要スペースを狭くすると共に、電気的出力を高めるように構成すべきである。」(甲第4号証1頁22行~25行)

(3)  発明の構成

本願発明は、上記課題を解決するために、特許請求の範囲記載の構成を採用した。(甲第4号証1頁27行~2頁6行)

(4)  発明の効果

「本発明は上記構成を採用したことにより、次のような効果を奏する。遊星歯車装置の特に軸方向における寸法が非常に短いので、電動機と組み合わせた駆動ユニットの全体の寸法が小さい。そのため、踏段帯状体またはパレット帯状体の間隔が狭いにもかかわらず、踏段帯状体またはパレット帯状体の方向変換範囲内において踏段帯状体またはパレット帯状体の内側に駆動ユニットを配置することができる。従って、エスカレータまたは動く歩道の全長を短縮することができる。更に、遊星歯車装置によって大きな減速が得られるので、電動機の出力を高めることができ、エスカレータまたは動く歩道の原動機として実際に使用可能である。」(甲第4号証2頁8行~末行)、「歯車装置ユニットの効率改善、特に中間歯車の省略は、人員輸送帯状体の運転時のエネルギー節約につながる。必要な場合には、手摺駆動軸を歯車装置の平歯車を介して直接的にでなく、チェーンを介してパレット駆動軸または踏段駆動軸によって駆動することができる。」(甲第2号証8頁9行~14行)

2  取消事由1(引用発明イの認定の誤り)について

甲第5号証によれば、引用例イに、「エスカレ-タの駆動装置であって、この駆動装置が循環する踏段帯状体の方向変換範囲内において、踏段帯状体の内側に設けられ、駆動装置が歯車装置部分を有する電動機(ギヤーモータなどを利用した電動機付原動機10)を備え、この電動機が踏段駆動軸(主軸13)に対して軸線が平行になるように設けられ、かつ他の歯車装置部分(歯車12、14)を介して踏段駆動軸を駆動する駆動装置において、互いに同軸の電動機と歯車装置とからなる駆動ユニットが、踏段駆動軸と手摺駆動軸に対して軸線が平行になるように設けられている駆動装置。」(審決書4頁1行~12行)との技術(引用発明イ)が記載されているものと優に認めることができ、そのように認定した審決に誤りはない。

原告は、審決の上記認定中の「駆動ユニットが、踏段駆動軸と手摺駆動軸に対して軸線が平行になるように設けられている」との部分につき、エスカレータにおいて踏段駆動軸と手摺駆動軸が互いに平行となること、及び、駆動ユニットは手摺駆動軸に対しても軸線が平行であることは、引用例イの記載から何ら導き出されるものでない旨主張するが、採用できない。

甲第5号証によれば、引用例イの第1図には、符号20で示された手摺部材の記載があることが認められる。エスカレータにおける踏段と手摺とが、同一方向へ、同一速度で駆動されることによって、これに乗っている人々を安全に搬送するものであることは、当裁判所に顕著であり、このことからすれば、引用発明イの上記手摺部材を駆動する手摺駆動軸の軸線が、特別の事情でもない限り、踏段を駆動する踏段駆動軸のそれと平行となっていることは、明らかというべきである。また、踏段駆動軸と手摺駆動軸との軸線が平行となっている場合に、これらを駆動する駆動ユニットの軸を、上記両軸と平行とするのが最も自然かつ合理的であることもまた、論ずるまでもないところである。

原告の主張は、失当というほかない。

3  取消事由2(本願発明と引用発明イとの対比の誤り)について

(1)  上記認定によれば、審決が、本願発明と引用発明イとを対比し、「駆動ユニットが、踏段駆動軸と手摺駆動軸に対して軸線が平行になるように設けられている」点で一致するとしたことに誤りのないことは明らかである。

(2)  原告は、具体的課題において、引用発明イが、「スペ-スの節約を図る」だけのものであるにすぎないのに対して、本願発明は、「必要なスペ-スが少なく済むだけでなく、同時に電気的出力を高めることができるコンパクトなエレベ-タ駆動構造体を提供する」ものである点で相違している旨主張する。しかし、原告主張の具体的課題は、あくまで課題であって、本願発明の構成とはなっていないことは、特許請求の範囲の記載や本願明細書の記載から自明である。

また、原告は、審決は、本願発明が「その駆動ユニットを踏段帯状体下の空間内に収納できる」との構成を有するのに対して、引用発明イはこのような構成を有していない点で相違していることを看過している旨主張する。しかし、本願発明が、上記構成を有するものではないことは、本願発明の特許請求の範囲の記載から明らかである。

原告の主張は、失当である。

4  取消事由3(相違点についての判断の誤り)について

(1)  本願発明の特許請求の範囲の記載と前記2(1)認定の引用発明イを対比すれば、本願発明と引用発明イとは、駆動ユニットの歯車装置が、本願発明においては遊星歯車装置を用いているのに対し、引用発明イにおいては、ギヤードモータなどを利用した電動機付原動機10の歯車装置からなる点で相違し、その余の点では一致していることが明らかである。

そして、引用例ロには、同一の技術分野に属するものと認められるエスカレータの駆動装置において、電動機16の出力を遊星歯車装置20により減速する点が記載されていること、「遊星歯車装置を採用すれば、比較的小型化が図れ、モータと同軸とすることができる点」(審決書5頁17行~18行参照)も開示されていることは、原告も認めるところである。

そうすると、引用発明イにおける電動機付原動機10の減速装置部分に代えて、引用発明ロの遊星歯車装置を採用することは、当業者が、ごく容易になし得たことというべきである。

(2)  原告は、引用発明イ及び同ロは、その具体的課題及び具体的構成が明らかに相違しているので、引用発明イ及び同ロには両者を組み合わせる動機付けが見当たらないなどと主張するが、いずれも失当であることは、上述したところから、明らかというべきである。

5  取消事由4(顕著な作用効果の看過)について

原告が特許性の根拠として主張する作用効果は、いずれも、引用発明イに引用発明ロの遊星歯車装置を適用して本願発明の構成をとった場合の、自明の効果にすぎない。

6  以上によれば、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がなく、その他、審決の認定判断にはこれを取り消すべき瑕疵が見当たらない。よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担、上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 宍戸充 裁判官 阿部正幸)

<以下省略>

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